嘘は溺愛のはじまり
「それからね、結麻さん。僕はあなたに謝らなければいけないらしい」
「え? なにを、ですか……?」
「僕の娘のことです」
「娘さんのこと……?」
「そう」
私は意味が分からなくて、少し首を傾げて考えを巡らした。
すると、隣に座っている伊吹さんがクスクスと笑い出し、思わず彼を仰ぎ見る。
「……従妹(いとこ)のことだよ」
「え、あ……っ」
そう、そうだった、伊吹さんの婚約者だと思っていたあの花屋の女性は、伊吹さんの従妹だった。
たしか、社長の弟さんの、娘さん、だったはずだ。
「……あっ」
やっと結論に辿り着いた私を、彼女の父親である篠宮取締役が少し申し訳なさそうに笑いながら見ていた。
「そう、あれは、僕の娘なんですよ。結麻さんに勘違いさせてしまったみたいで……申し訳ないです」
「えっ、いえ、あの、悪いのは、勝手に勘違いしていた私ですからっ」
よく考えてみれば、誰かからふたりが恋人同士だと聞いたわけでも、伊吹さん本人に確かめたわけでもない。
完全に私の早とちりで、勝手な憶測だった。
完璧な伊吹さんに恋人がいないはずがない、と言う私の思い込みがそうさせたわけだけれど……。