嘘は溺愛のはじまり
「あ、お客様がいらっしゃったんですね。すみません、おしゃべりしすぎました」


とても恐縮した様子で叔父に謝っている。

コーヒーのドリップぐらいは客と話しながらでも出来る、そんなに恐縮する必要は無い。

きっと叔父も同じ事を彼女に告げただろう。

けれども、彼女の鈴のような声は、それきり聞こえなくなってしまった。


淹れたてのコーヒーをテーブルに置いた叔父は、いつも通りの柔和な顔で俺に話しかけた。


「伊吹くん、お疲れ様。出張、どうだった?」

「まぁ、いつも通りです。……新規のお客様?」


俺が視線を移した先は、さっきのカウンターに座る女性がいる。

歳は……20代半ばぐらいだろうか。


「ええ、そうです。なに? 珍しいね。気になる?」

「和樹さんがやけに嬉しそうでしたから。浮気ですか?」

「ははは、そんなわけないでしょう。親子ほど歳が離れているし、まずお客様に対してそんな感情は持たないよ。そして、僕は妻ひと筋です」

「……それなら良いですけど」


思わずため息を吐いた俺に、叔父である和樹さんは柔らかく微笑んだ。


「じゃ、ごゆっくり」

「……どうも」


出会い、と言えるかどうかは定かではないが、これが彼女との出会い、だった――。
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