嘘は溺愛のはじまり

結麻さんは……書庫の一番奥で、谷川に押し倒されていた。

奥瀬が谷川の服を乱暴に掴んで床に投げ倒す。


許せない、許せない……!


頭が沸騰しそうだった。

顔面蒼白になりながらも起き上がろうとする結麻さんを抱き起こしながら、先ほどこの目で目撃してしまった出来事が映像となって頭の中で再生される。


――谷川に押し倒された彼女は、上半身がほとんど下着姿になっていて……谷川に唇を奪われていた……。


くそっ!!


震える結麻さんをギュッと抱き締める。

間に合わなくて、ごめん。

……声には、ならない……。


ガタガタと震える結麻さんに俺のジャケットをかけ、再び抱き締める。

谷川が「この女が誘ってきたんだっ!!」と叫ぶと、その言葉を否定するように首を何度も横に振りながら……彼女は意識を手放した――。


俺は、谷川を、絶対に許さない――。



緊急役員会議を開き、今回の件を話し合い、あっという間に処分が決まる。


懲戒解雇――当然の処分だ。


手続きなどは他の者に任せ、急いで帰る準備をしているところで、携帯が鳴る。

楓からだった。


『もしもし、伊吹!?』


楓にしては、切羽詰まった声だ。


「どうかしたか? 悪いが、急ぎでないなら後で、」

『結麻ちゃんと、何かあった!?』

「……彼女が、どうかしたのか?」

『街で……ネットカフェの前で見かけて。家出みたいな荷物持ってるし、とりあえず声かけて、』

「いまどこにいる!?」

『和樹さんの店に連れて来てる。迎えに来れる?』

「すぐに行く!」

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