嘘は溺愛のはじまり
篠宮さんから一緒に住んでることについて言及することの許可は、得ていない。
私が言葉を濁すと、奥瀬くんは小さなため息を吐いて「住んでるのか……」と呟いた。
否定したいけれども、言葉が出ない。
「あ、の……、」
「なに? 付き合ってるってこと?」
「えっと、それは違うんだけど……」
「付き合ってないのに、一緒に住んでるんだ?」
「えっ? あの、それはその、ちょっと色々事情があって……」
「……愛人?」
「……は?」
「……ごめん何でもない」
いやいや、何でもない、ってこと無いよね?
『愛人?』って言ったよね?
……愛人なわけ、ない。
だって、篠宮さんは私の事なんて、きっと眼中にない。
“愛人”って、身体で繋がってる関係ってことだよね?
私と篠宮さんは、心も、身体も、……残念ながら、何の繋がりもない……。
「まぁいいです。間違いが無いなら、受理して、処理します。お疲れ様でした」
奥瀬くんは少し前までと声のトーンを変えて、冷たく言い放った。
「あの、」
「もう戻っていただいて結構です。お疲れ様でした」
そう言われてしまえば、私はもう席を立つしかなかった。
頭を下げて、打ち合わせ室を後にするしかない……。
打ち合わせ室の扉を閉める前に一度振り返ったけれど、奥瀬くんは書類に目を落としたまま、こちらを見ることはなかった。
もしかするとこれは、問題ありの展開なのでは……?