嘘は溺愛のはじまり

マスターは私の苦手な食べ物だけを聞いて、私が特に無いと答えると「ちょっと待ってて下さいね」と言って店の奥へと消えていった。


このカフェは、昼前の11時に開店して、閉店は夜11時だ。

昼は15時までランチを出していて、それ以降の食べ物はケーキなど甘いものしか置かない。

私は夜にしか来たことがなくて、いつもコーヒーを一杯飲むだけだった。

よく考えると売り上げに全く貢献しない客だったと思う。


「お待たせしました」


マスターと共に出て来た若い男性が、美味しそうなプレートを差し出してくれて、思わず「わぁ、美味しそう!」と感嘆の声を漏らしてしまった。


「はじめまして。噂には聞いてたけど……きみが結麻ちゃんかぁ」

「はい、若月結麻です、はじめまして」


年齢は、私より少しだけ上、ぐらいだろうか。

とても優しそうな人だ。

マスターの周りにはやっぱり同じように優しい空気を纏った人が集まってるんだなって、感心してしまった。


「こらこら楓くん。まず名乗りなさい」

「あぁ、ごめんね結麻ちゃん。名前かぁ……まぁ、苗字はいらないよね? 自分の苗字嫌いなんだ。カエデです。木偏に風って書く、アレね。よろしくね」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

随分気さくな人で、楓さんの柔らかい笑顔に私はすっかり安心してしまう。

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