何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。



あの時の一夜でできた子どもなのか……?


鳥肌が止まらない。


でも、そうだとすると全ての辻褄が合う。


時間も、タイミングも、舞花が"相手には他に好きな人がいる"と思っていることも、付き合ってたわけじゃないことも、相手が妊娠も出産も知らないことも。


俺に瓜二つなのも、その名前が"隼輔"ということも。



「っ……」



アルバムに、ぽたぽたと涙がこぼれ落ちた。


そこには、どの写真にも俺の隣で笑っている舞花がいて。


舞花が映っていない写真を探す方が大変なくらい、どこを見ても様々な表情の舞花がいる。


どうしてあの時の俺は、そんな当たり前のことに気が付かなかったんだろう。


今更後悔したって遅いのに。時間は巻き戻らないのに。


俺は自分のことばかりで、舞花のことを何も考えていなかった。



「……最低なのは、俺じゃねぇかよ……」



今頭の中にある仮説が本当だとしたら。


舞花は、どんな気持ちで妊娠の事実を受け止め、どんな気持ちで出産したんだろう。


それも、土地勘も無く知り合いもほとんどいない街で。誰にも連絡できず、たった一人で。


想像も絶するような、壮絶な日々だったのではないか。


まだ何もわかっていないのに、そう考えただけで無性に今すぐ舞花に会って、抱きしめたくなった。



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