何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。



「舞花がいなくなって、もう会えないかもしれないって思って、たまんなく怖くなって。苦しくて。初めて気付いたんだよ。俺は舞花が好きだって」


「な、え、え?」


「舞花の優しさに甘えて今まで自分の気持ちを理解してなかった。俺は舞花のいない人生なんて考えられないし、いつでも手の届くところに舞花がいてほしい。舞花と一緒に隼輔の成長を見ていきたいし、一緒に育てたい」


「……」


「舞花、好きだ。大好きだ」



これは現実なのだろうか。都合の良い夢?私の願望?


だって、こんなことあるっ……?



「っ……なによっ、いまさらっ」


「あぁ。本当今更だよな。舞花のこと傷付けて、大変な思いさせて。都合の良い馬鹿な男だって笑えばいいよ。
でも俺はお前を諦めるつもりはさらさら無いから」


「……笑えないよっ、馬鹿っ!」



涙を拭うことも忘れて、その胸に飛び込む。
驚きつつも軽々と受け止めてくれたその大きな身体に、言葉にならない気持ちをぶつけ続ける。



「馬鹿っ……ほんと、馬鹿だよ隼也っ……」


「あぁ。俺は馬鹿だよ。こんな可愛くて魅力的な女がずっと隣にいたのに、気付かなかったんだから」


「っ……隼也のバカァ……」



隼也の胸を何度も叩く。服を握りしめ、溢れる涙を肩に押し付け、漏れる嗚咽を飲み込むように必死に堪えた。


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