何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。



本当に馬鹿なのは、隼也じゃなくて私だ。


自分の気持ちに気が付いてからずっと今日まで、告白すらもできなかった私が一番馬鹿なんだ。


自分にも周りにも嘘をついて、隼也とは仲の良い幼馴染をずっと続けてきて。


自分が傷付きたくないから逃げた臆病者だ。


そんな私には隼也を責める資格なんてないのに。



「ごめんな舞花。うん、ごめん」



何故か嬉しそうに謝る隼也の胸が、心地良くて。


その優しさに甘えて、しばらく泣き続けた。



「……落ち着いた?」


「うん」


「ははっ、目真っ赤」


「……うるさい」


「ちょっと待ってろ。何か冷やすもの持ってくるから。……舞花?どうした?」



泣き止んだ後、私の顔を覗き込んでから立ち上がろうとした隼也の服の裾を掴む。


不思議そうに首を傾げた隼也に、顔を真っ赤にしながら呟いた。



「……行かないで。一緒にいて」



囁くほどに小さな声だったものの、隼也には聞こえていたようで無言で再び隣に座ってくれる。



「……隼也」


「ん?」


「ぎゅってして」


「……ん。おいで」



恥ずかしくて顔を上げられない私に、隼也が小さく笑っているのがわかる。


広げられた両手にもう一度飛び込むと、今度はその首に両手を回した。


隼也の首筋に鼻を擦り寄せ、深呼吸を繰り返す。


今日も香るグレープフルーツに、目尻が下がる。


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