婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~

佐竹が少し下がった目尻でにっこりとほほ笑んだ。

「ご婚約おめでとうございます。運転手としましては、お仕えする主人の配偶者になられる方ですから、お人柄をおうかがいできればと」

宗一郎はムッと口を引き結ぶと、タブレットを隣の座席に置き、腕を組んで茅島奈子のことを考えた。

年齢は二十七歳、あかり銀行頭取の茅島行高の次女で、烏丸証券に勤めている。

事前に入手した奈子の企業調査レポートは明快かつ的確で、宗一郎が読んでも興味深いものだった。

はっきりとした幅広の二重に薄い唇の上品な顔立ちをしていて、ベージュブラウンの髪は背中に届くほど長く、すらりとした手脚が華奢なことも知っていた。

奈子がわざわざドアマンの目を見てお礼を言うような令嬢でなければ、宗一郎の正体を明かす前に、もっとたくさんのことがわかっただろう。

でも、鬼灯家の花嫁は聡明なほうが望ましい。

おそらく奈子は、ドレスコードの間違いも目にした途端に気がついていたはずだ。

おっとりした雰囲気に反して頭の回転が速く、宗一郎が本のあらすじをわざと複雑に説明しても、奈子は難なく理解していた。

だから、今夜の食事が楽しかったのはうそではない。

宗一郎は目尻を下げて笑う奈子の顔を思い出したところで思考を切り上げ、再びタブレットを手に取ると、簡潔に答えた。

「垂れ目だった。きみと同じだな」
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