婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~

「あの……佐竹さんって、弁護士さんなんですよね」

宗一郎は佐竹を顧問弁護士だと紹介した。
婚前契約書の内容に不満があれば、この男に連絡しろと。

佐竹がバックミラーに映る奈子を見てほほ笑む。
少し下がった目尻が優しく、端正な顔立ちをした壮年の男だった。

「いえ、正確には鬼灯家の執事として雇われております。弁護士資格を取得することになったのは、私が医者を辞めて宗一郎さんに拾われた当時、彼がまだ法学科の学生だったからです」

車が静かに左折する。
奈子は口をギュッと引き結び、佐竹の簡潔な説明を理解しようと努めた。

つまり鬼灯家に仕える佐竹という男は、医師と弁護士のダブルライセンスを保持する執事で、しかもその並外れた能力のすべてを宗一郎に捧げている。
宗一郎と同じくらいの知識を共有し、理解するためだけに、弁護士資格を取得してしまうほど。

奈子はハッとして身を乗り出した。

「もしかして、宗一郎さんも司法試験を受けているんですか」

佐竹が困ったように笑って肩をすくめる。
どうやら、とんでもない男と婚約した奈子に同情しているらしい。

「もちろん合格されました。公表はしておりませんから、知っているのはごく少数ですが」

奈子はぐったりとシートに背中を預け、思わずため息をついた。

(まったく、どこまで完璧なら気がすむの)

宗一郎が国内最難関の大学院を卒業していることは知っていたけれど、てっきり経営学を専攻しているものと思い込んでいた。
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