婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~

ホーズキなら優秀な法務担当者をいくらでも採用できるし、実際、鬼灯家は佐竹を雇っている。
宗一郎が法学科の出身だということも喧伝していない。

奈子は窓の外に見える名門大学のキャンパスを眺めて首を傾げた。

宗一郎はきっと、どんなときも冷徹に、もっとも必要で効率のいい方法を選択できる。
結婚だってビジネスの手段にするくらいだ。

だけど奈子の考えが正しいのなら、宗一郎はなぜ、法律を学んでいたのだろう。

車が減速し、松濤の住宅街をゆっくりと進む。

とりわけ高い外壁に囲まれた豪邸のアプローチに、チャコールグレーのスリーピーススーツを着た宗一郎が立っていた。
また今日も仕事の合間らしい。

奈子を乗せた車が宗一郎の真横にピッタリと止まる。
宗一郎が後部座席のドアを開け、左手を差し出した。

「ようこそ、我々の城へ」

いたずらっぽく笑った宗一郎に引き寄せられ、ボトルグリーンのワンピースの裾がふわりと揺れる。
ピンヒールにふらつきながら車から降りた奈子を、宗一郎がしっかりと抱きとめた。

「花嫁のお気に召すといいのですが」

スーパーマンみたいに優秀な執事を雇う身分のくせに、恭しくかしずくキザな仕草まで完璧で、奈子はムッと顔をしかめる。

奈子が連れてこられたのは、入籍後に宗一郎とふたりで暮らす予定の家だった。

ただ、宗一郎はホーズキ本社の近くでグループが経営するラグジュアリーホテルに部屋を所有していて、松濤の(やしき)にも鬼灯本邸にもほとんど寄りつかないのだとか。

奈子と結婚したところで、ここに帰ってくるのかは疑わしい。
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