婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~

奈子はなるべく平静を装い、困ったように眉を下げた。
近くで聞き耳を立てている社員にも声が届くように、はっきりと否定する。

「こんなの知らないよ。私、なにも聞いてない」

奈子が突き返したスマホを受け取って、日葵が肩をすくめる。

「いいよ、うそつかなくて。さっき鬼灯宗一郎が認めたところ。ホーズキに問い合わせが殺到して業務に支障が出てるから、これ以上の取材は控えてくれってさ」

「わ、ほんとですか! やっぱ茅島さん結婚しちゃうのかあ」

大きな声を出した樹が、日葵に睨まれて申し訳なさそうに首を引っ込める。

奈子は口を真一文字に引き結び、黙って自分のスマホを確認した。

佐竹からの連絡はない。
もちろん、宗一郎からも。

日葵がつまらなそうに記事をスクロールする。

「社長に就任してから俳優みたいな人気だもんね。ただの客寄せだと思ってたけど、これは相当な腕利きだわ。それともスポークスマンが優秀なのかな。今までわざとメディアで目立つように顔を売ってたのも、婚約を話題にするためだったんだ。なにもかも鬼灯宗一郎の策略ってわけね」

奈子は冷たくなった指先をギュッと握りしめた。

「どういうこと?」

婚約記事の本当の意味を考えたくないと思っているせいで、いつもみたいに日葵の話すことをすぐに理解できない。

でも、嫌な予感がする。

奈子は今まで婚約のことを日葵にさえ伝えなかったし、あの宗一郎が記者に出し抜かれるとは思えなかった。
それなら誰がどうやって、ふたりが結婚することを突き止めたの?

「だって、天下の鬼灯家だよ。知らないところで婚約なんて報じられるはずないもの」

日葵がムッとして口を尖らせる。
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