婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~

「きみはわかりにくい女だ。俺を知りたいと言ったのに、二ヶ月もろくに口をきいていない。連絡先を交換しても、まともな返事をよこさない。俺を嫌うような態度を見せながら、なぜか毎週日曜になるとここへ来ている」

奈子もムッとして言い返した。

「私は、あなたを嫌ってなんかいません」

だいたい、わかりにくいのは宗一郎のほうだ。
優しくしたり、突き放したり、なにを考えているかなんてまるで見当もつかない。

奈子の好きな本を書斎に集めて、法律を学んだ理由を話してくれた。
そっと抱き寄せ、いたずらっぽいキスをして笑った。

奈子が待っていれば、ちゃんと迎えにきてくれる。

でも宗一郎は、結婚を商談みたいに扱う。
ビジネスのために奈子との婚約を記事にしたかもしれない。

すべては策略なのだろうか。
期待すればいつか手ひどく裏切られて、奈子はまた幻の中に取り残される。

奈子はふと顔を上げた。
今は、宗一郎が現実(そこ)にいる。

「それなら、なぜきみは俺を待っていた」

奈子は肩を包むコートを胸の前でかき合わせた。
微かなベルガモットの香りがする。

「ガウェイン卿がラグネルを妻にしたとき、彼女にかけられていた呪いがなんだったか知っていますか」

宗一郎が片方の眉を上げる。
奈子はコートを握る指にギュッと力を込めた。

呪いを解く魔法の呪文を、宗一郎はこともなげに言い当てる。

「昼か夜、どちらかは若くて美しい女性、どちらかは醜くて下品な老婆になる呪いだった。ラグネルがどちらで美しくなるのがいいかと聞くと、ガウェインは——」
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