婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~

宗一郎が上機嫌に笑って、奈子の額にキスをした。

「全部俺のやったことだよ」

宗一郎はちゃんと始末もつけた。
ブラウスの中に手を突っ込んで器用に下着を直し、ジャケットを肩にかけ、スカートをきれいに整える。

上がり框に置いた鞄を持ってネクタイを締め直すと、最後に片腕で奈子を引き寄せた。
頭の上に顎をのせて低くささやく。

「ちょっと立て込んでる。もうしばらくひとりにすると思う」

奈子は宗一郎をギュッと抱きしめた。

(……帰ってきて、なんて言えない)

たとえ奈子が今夜だけでもそばにいてほしいと願ったとしても、口に出せることはたったひとつだった。

「体に気をつけてくださいね」

宗一郎が奈子を手放し、深刻な顔でうなずく。

「佐竹には礼を言っておく」

「ぜ、絶対だめ!」

宗一郎は笑って奈子に手を振り、玄関のドアを閉めた。





それから九日、会っていない。

「うそ、なにこれ!」

親子丼を食べ終えた日葵が、椅子を蹴倒して立ち上がった。

ずっと雨が続いている。
宗一郎は家に帰らなくなった。

ふたりが結婚披露宴を行ったラグジュアリーホテルには宗一郎の所有する部屋があって、しばらくそこを使うことになりそうだから、奈子も自由に出入りしていいと連絡をくれた。

奈子は部屋の番号を知っているし、経営者一族のプライベートフロアに直通する専用エレベーターの使い方も教わっている。
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