堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く
翌日、仕事が始まる前に、百合ちゃんを会議室に呼んだ。
何を言われるかと、ビクビクしているのが手に取るようにわかる。
「百合ちゃん、得意なことってある?」
思ってもみない質問だったのか、目を丸くして「得意なことですか?」と繰り返した後、「得意なことなんてありません…」と下を向いて、小さな声で答えた。
「なんでもいいの。習い事してたものとか、何かない?」
「書道は15年くらいやっています…」
「あるじゃない!得意なこと!」
よしよし、見つかった!
くらき百貨店では、イベントの開催をするときに、特別なお客様にだけ手書きで手紙を添えて、住所も手書きにする。
催事部の仕事だが、イベント開催の準備と手書きの作業が重なってしまうらしく、泣きつかれて手伝うことが多々あるのだ。
催事部に仕事を当たってみよう。
「わかった。じゃあ戻ろうか」
機嫌よく言うと、百合ちゃんはまた驚いた顔をした。
「それだけですか?」
「うん」
「怒らないんですか?」
「昨日のことは、注意していなかった私も悪い。だから、お相子ということにしよう」
百合ちゃんは、ぶわっと涙を浮かべた。
「百合ちゃんに必要なのは、〝自信〟だと思う。何をするのも恐々だから、それがダメな気がする。一度、得意なことをしてみよう」
はらはらと涙を流す百合ちゃんに一言だけ言う。
「でも、百合ちゃん。仕事中に泣くのは止めよう。そこは我慢。できる?」
「はい」
百合ちゃんが頑張って泣くのを止めようとした。
「よし!じゃあ、戻るよ」
「はい!」百合ちゃんはいつになく大きな声で答えた。