堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く

百合ちゃんのことが落ち着くと、彩芽の日常も落ち着きを取り戻した。

そして、タロちゃんが言っていたように、週に一、二回、『京泉』がデザートを卸しているお店を巡る会が発足した。会員はタロちゃんと彩芽の二人だけ。

タロちゃんが連れて行ってくれるお店で美味しいものを食べ、最後に『京泉』のデザートを頂くという、なんとも贅沢な会だ。

お店は一流の名店ばかりで、彩芽が一人ならとても入店できそうもない。滅多にない機会に心が踊った。

ただ気になるのは、どのお店でも、タロちゃんの出迎えられ方がものすごく丁重だということ。さすがに彩芽にもタロちゃんがただの和菓子職人ではないということが伝わった。

なんだろう。

料理人だと〝料理長〟という役職があるけど、それみたいなもの?
和菓子職人だから、職人長?

もしかしたら、『京泉』本店の職人のトップかもしれない。それだと、かなり上の役職になるだろうし。

何も知らないことに傷つく自分がいる。

『いつか話します』

そう言ってくれたタロちゃんを待つしかないと言い聞かせた。


食事を終えた後の支払いはいつもタロちゃんが済ませてしまう。

さすがに毎回では気が引けるので、会費を払うと言ったのだが、「頑張ってる彩芽さんにご褒美です」と言って受け取ってもらえない。

和菓子職人のトップ(勝手に彩芽が思ってるだけだけど)って、いくらくらいお給料をもらっているのだろう。もちろん、彩芽よりはたくさん稼いでいるだろうが、毎回高額な食事代をおごってもらうわけにはいかない。

考えた結果、お礼に作務衣を作ってプレゼントすることにした。

タロちゃんは、『まつの』ではいつも作務衣を着ている。おそらく、タロちゃんの仕事着なんだろう。

裁縫は上手くはないが、まあまあできる。

生地を『いわくら』に買いに行ったとき、『タロウやな?』と若旦那にニヤッとされたのは困ったが、親身に相談に乗ってもらえたのはありがたかった。

喜んでくれるかなと思いながら、心を込めて縫っていく。タロちゃんのことを考えながらする作業はとても楽しかった。

タロちゃんに「いつもありがとう」と照れながら渡したときには、とても喜んでくれた。

「菓子を作るときに着させてもらいます」

そう言ってくれたとおり、タロちゃんは『まつの』での仕事の時に着てくれるようになった。

「上手にできたわね」
祖母にこそっと耳打ちされたのが恥ずかしかった。

< 50 / 107 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop