ままになったら極上御曹司に捕まりました?!
廊下の方が騒がしくなったから、宮代コーポレーションの人たちが到着したのかもしれない。
ということは、亮真さんもいるってことよね…



包丁で野菜を切っていると、従業員の佐々木さんがキッチンに入ってきた。

「さくらちゃん、申し訳ないんだけど梅の間に浴衣1枚届けてくれる?ちょっと今手が離せなくて」

「梅の間ですね、分かりました。サイズは…?」

「とりあえず大きめの方がいいかな?男性の方だったから」

「分かりました、今急いで取ってきます」

浴衣置き場まで行って、浴衣を手に取る。
ふと、亮真さんだったらどうしようかと思ったけど、そんな考えはすぐに頭からかき消す。

お客様をお待たせしてはいけないと思い、急いで梅の間へ向かう。

部屋の前に着き、扉を叩く。

「失礼致します。浴衣をお持ち致しました」

彼の部屋ではありませんように。

ガチャ、と扉が開く。

しかし私の望みとは裏腹に、中から顔を出したのは、さっき公園であったばかりの亮真さんだった。

なんでよりによって彼が出てくるのよ。他にも部屋はたくさんあるのに。

「あ…わざわざ届けてくださってありがとうございます」

早く行きたい一心でそのまま浴衣を渡そうとする。

「サイズが合わなければ、再度お呼び下さい」

そう言ってお辞儀をし、すぐさま後ろを向く。

「ちょっと待って下さい、1回着てみるので部屋に入って待っていて貰えませんか?またお呼びするのは申し訳ないので」

後ろから声を掛けられる。さすがに旅館の者としてここで断るのは不条理だろう。

大丈夫。彼は私に気づいてない。

「わざわざお気遣いありがとうございます。では、こちらで待っておりますのでご確認お願い致します」

「いやいや、中で座って待っていて下さい。お着物着てらっしゃいますし、立ちっぱなしも大変じゃないですか」

そうだ、彼はこういう人だった。誰よりも気遣いが出来て、優しくスマートな人。
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