ままになったら極上御曹司に捕まりました?!
部屋は統一感があって、畳の匂いがとても落ち着く。

とりあえず早く支度するか…

部下たちは俺が行かないと食べにくいだろうし。

そう思い、浴衣の入っているクローゼットを開ける。

取り出すと微妙にサイズが小さく、着られるは着られるものの、ゆったりしてる方がいいかと思ったため、一旦浴衣をしまう。

電話で伝えればいいかな、と思いフロントへ電話をかける。

『もしもし、梅の間にサイズの大きい浴衣を持ってきてもらってもいいでしょうか?』

『お手数おかけして申し訳ございませんでした。すぐにご用意致します』

『よろしくお願いします』

電話を切ったあと、部屋を見て回る。

窓を開けると、ひんやりとした住んだ空気が流れ込んでくる。

木々や花の匂いもあって、久しぶりにゆったりとした気分になる。

何年ぶりだろうかこんな気分になるのは。

周りに負けないよう、今までがむしゃらに働いてきた。

一族の息子として社長になるのではなく、実力のある奴だから社長になったんだと、そう周りに思って欲しかった。

そんな思いでようやく社長になったが、過去には、欲しかったものはもうひとつあった。

……ただもう叶いそうもないけど。

さっき会った彼女の顔が浮かんでくる。

あれだけ探しても見つからなかったのに、これほどあっけなく会えるとは。

やはり、連絡先を聞いておくべきだったか…。

そう思っていると、部屋の外から声が聞こえてくる。

『失礼致します。浴衣をお持ち致しました』

さっき言ったばかりなのに、もう持ってきてくれたのか。

さすが向こうの社長がお勧めするだけのことはあるな。

扉を開けると、着物を着た女性が立っていた。


…………さくら、だよな?

さっきまで彼女のことを考えていたから、とうとう幻でも見えてきたのかと思った。

だが、どこからどう見てもさっき会った彼女に変わりはない。

どういうことだ?ここで働いているのか?

とりあえずお礼だけしておかないと…

「あ…わざわざ届けてくださってありがとうございます」

夢なのか現実なのかよく分からないまま、声をかける。

「サイズが合わなければ、再度お呼びください」

そう言って彼女はお辞儀をし、すぐさま後ろを向く。
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