ままになったら極上御曹司に捕まりました?!
「さくら、おまたせ…なんでそんなとこ座ってんの?」

戻ってきた専務の手には、暖かそうなココアがあった。

コトン、と持ってきたマグカップを机に置き、ソファに座る専務。

「なんか、ちょっと座るのは気が引けて…」

「なんでよ、寒いんだから早く」

そういって私の腕を持ち、強引に私を立ち上がらせる。

しかしあまりの勢いにつんのめりそうになった所を、専務が支えてくれる。

……が、思わず手を出しソファの縁を掴むと、専務を押し倒しているみたいな体勢になってしまった。

「さくら、積極的だね」

私の下でニヤッと笑う専務。

慌てて手を離し、ちょっと離れたところに座る。

「す、すみません、」

「耳まで真っ赤になってるよ。本当に可愛いな」

可愛いなんて言われることないし、お世辞だとわかっていても、そんな免疫は私についていないので、余計顔が熱くなるのが自分でもわかる。

「あのっ、それより話って…」

専務の視線に耐えきれず、話を持ち出す。

「あー、そうだね。もう俺のものになったから全部話すよ」

…?なんのこと?

「まず、俺がさくらを見つけたのは、こないだのパーティが最初じゃなかった」

「でも、お話したことは1度もなかった気がするのですが…」

「うん、話したことは無かったけど、初めてさくらに興味を持ったのはちょうど半年前くらいだった」

……半年前?何かあったかしら

「半年前、俺が専務という立場になってから1年くらいかな。あの時の俺は、正直いって自分が自分じゃないみたいだったんだ。会社を継ぐことは小さい時から意識してきたし、そのための勉強も人一倍してきた。でも現実はそう簡単にはいかなくて、上手くいかない事業のことで参ってる時があったんだ」

一見完璧な人は、実は裏では人の何倍も努力して、血のにじむような思いをしているんだと、専務を見ているとそれがひしひしと伝わってくる。

「その日は、どうしても家に帰る余裕がなくて会社の仮眠室に泊まったんだ。普段は家も近いし使うことはなかったんだけどね。眠ると言っても、ちょっとだけ休憩するつもりだったんだ。あんまり使われてない仮眠室だから、落ち着いて寝るのも無理だと思っていたのに、いざ入ってみたらすごい綺麗に整頓されてた」

どうして仮眠室の話から私に繋がるのか分からないまま、話を聞く。

「でも、その中でも1番気に入ったのはベッドの匂いだった。クリーニング屋に出してるとは思えないのいい匂いだったんだ、柔軟剤のね。その時は、掃除の人か誰かが、交代で洗濯してるのかと思ってたんだ。でも、その後結構な頻度で泊まることが増えてね。でも違う人がやっている割には、整頓の仕方が均一で綺麗だった。それである日見つけたんだ。終電の時間が近いのに部屋から出てくる綺麗な女性を。最初は、この部屋使ってる人が他にもいるんだなぐらいにしか思ってなかったんだけど、部屋に入ったらシーツの使用済み入れカゴが空になってたんだ。だから、さっき見た女性が、いつもこの部屋を綺麗にしてくれてるんだってわかった」

……きっと、その女性って私のことだ。
私以外に仮眠室を掃除してる人はいないはず。

「そう、これで気づいた?その時の女性がさくらだったんだ」

「はい、掃除してるのは私しか居ないですし…。ですが、どうしてそれで私に興味を持ったのかわからないです」

「そんなの簡単だよ。一目惚れしたんだ、さくらに。それに実はその後、ちょっとしたコネを使って調べてみたんだ。掃除する人は特に決まってなくて、さくらが自主的にしてくれてるってことも。他にも、さくらは色んな人に信頼されてて、仕事にも真面目で冷静だってこととか。あとは、さくらの笑った顔が世界一可愛いってことも知ってる」

亮介さんに婚約者が居るというのは頭のどこかでわかっているのに、思わず赤面してしまう。

「…褒めて頂きありがとうございます」

優しげな専務の視線に耐えられず俯くと、専務の男らしく、綺麗な手が私に伸びてくる。
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