ままになったら極上御曹司に捕まりました?!
家に着くと周りはすっかり暗く、かなり遅い時間になっていた。
買ってきた物を整理していると、ピロン、と携帯の通知音がした。
誰だろうと思い、画面をのぞき込むと、今1番思い出したくなかった名前が浮かんでいた。
…専務だ。
初めて連絡先を交換した時、名前を専務って登録したら、下の名前にしないと襲うって脅されたな。
専務とは少しの時間しか一緒にいなかったけど、もう離れるって決めたのに、彼と過ごした一瞬一瞬が、頭の中の奥深くに残っていた。
涙の膜が張り、視界がぼやける。
こんなことになるなら、初めから出会わなければ良かったのに。
さっき見た専務と女の人の姿が頭に浮かぶ。
きっと、身分違いなのに専務を好きになっちゃった私への罰だ。
涙を拭き、メッセージを見る。
『話があるから、今度さくらが都合のいい時会わないか?なるべく直接話したいんだ』
私が決心したように、専務も同じことを思ったのだろうか。
楽になるけど、その分悲しい気持ちもあった。
まだあの女の人と一緒にいるのかな…
でもお似合いの2人だったな。
会わないと決めたけど、専務の方から切り出してくれるなら心の整理もつきやすいと思い、『私はいつでも大丈夫です。専務が忙しくない時、連絡ください』と返す。
何も考えたくないから、明日の仕事の準備と家事をして、すぐ眠ることにしよう。
そう決めて、涙を拭いたティッシュと、専務との思い出をゴミ箱に投げ捨てた。
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
次の日、仕事を終えて帰っていると、知らない年配の女性に声をかけられた。
「あの…花宮さくらさんですか?」
品の良さそうな方だわ。
「…はい。あの、どちら様ですか?」
知り合いではないと思うんだけど。
「私は、宮代さちと申します。宮代亮真の母です」
…専務のお母様!やっぱりお母様は美人な方なのね。
「は、初めまして。花宮さくらと申します」
「少し、お話があるのだけれどよろしいかしら?」
「私は全然大丈夫です」
…話ってきっと専務とのことよね。
「外は冷えるから、そこのカフェでいいかしら」
とりあえず「はい」と頷き、お母様について行く。
席に座ると、すぐにお母様は話を切り出す。
「単刀直入に言うのだけど、亮真と別れて欲しいの。あの子には婚約者がいてね、今まではあまり強くいってなかったのだけどそろそろ身を落ち着けて欲しいと思っているの。本人たちの問題に親が口出しするのも申し訳ないのだけど…。もちろん、それなりのお金はお支払いします」
…そんなことを言われて私は断れる立場にないのは分かってる。
それに、相手にそれなりの身分があった方が、専務を支えられるって言うことも。
そもそも付き合っている訳ではなく、体の関係だし。…なんか言ってて悲しくなってきた。
「分かりました。専務との関係は終わりにします。ですが、お金は必要ありません。お金ではなく、自分の意思で決めたので」
「……そう。急にこんなこと言ってごめんなさいね。あの子の為だと思って許して頂戴」
お母様の気持ちも痛いくらい分かる。
それに、こないだ専務と婚約者の姿を見て、離れるって決めた時だったから、ちょうどいい機会だったのかもしれないな。
今度会う時に、私も話をしよう。
専務のお母様の後ろ姿を見ながらそんなことを考えていた。
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
事態が大きく変わったのは、お母様と会ってから1週間過ぎたくらいの時だった。
年明けから、専務はかなり忙しいらしく、会えない日々が続いていた。
朝から由美がバタバタと走ってくる。
「ねぇ、さくら聞いた?専務、明後日からしばらくパリに行くらしいよ。支店の大きな仕事任されたんだって」
え……明後日?専務がパリに?
「そうなの?海外なんてすごいね」
あまりに衝撃的すぎて頭が真っ白になる。
「もう、本当にさくらこういうの興味ないんだから。あーあ、せっかくイケメン拝めてたのになぁ…。でも外国行くってことは婚約はもう決定したのかな、さすがに相手だって3年も待てないよね」
「……3年も行くの?結構長いんだね」
「うん、そうらしいよ。まぁ確かではないんだけどね。でも前に海外行ってた時も同じくらいの期間だったし、大体そうじゃないかな」
専務の言ってた話ってきっとこの事だったんだ。
でも、顔を合わせなくて済むのは私にとっては幸いの事だったのかもしれない。
専務を見たら、また色々思い出しちゃうから。
それに、物理的な距離が離れれば、気持ちだってすぐに落ち着くだろうし。
……でも離れるって決めたのに、心のどこかでまだ一緒に入れたらなと狡い考えをしている自分がいる。
ふとした瞬間に専務のシトラスの香りを思い出すと、恋しく思ってしまう。
専務に恋してから、自分が自分じゃないみたいに感じるようになった。
身体だけの関係って想像よりも幸せで、でもその何倍も辛くて悲しかった。
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
その日の夜、ピロンという通知と共に専務のメッセージが届いた。
『今日の夜8時、前のバーで会えるか?』
…今日で全てが終わる。
アプリを開き、『分かりました』と返事を送る。
退社時間まで気持ちは落ち着かず、ソワソワして一日をすごした。
帰り際に化粧室に寄って、少しだけ化粧を直す。
…別に綺麗にしなくたっていいじゃない。専務は私のことなんて気しないわ。
鏡に映る自分と自問自答する。
でも、それでも、専務がもしかしたら私のことを思い出す時があるかもしれない。
その時は綺麗な姿の自分が朧気にでも残っていて欲しい、そう思った。
買ってきた物を整理していると、ピロン、と携帯の通知音がした。
誰だろうと思い、画面をのぞき込むと、今1番思い出したくなかった名前が浮かんでいた。
…専務だ。
初めて連絡先を交換した時、名前を専務って登録したら、下の名前にしないと襲うって脅されたな。
専務とは少しの時間しか一緒にいなかったけど、もう離れるって決めたのに、彼と過ごした一瞬一瞬が、頭の中の奥深くに残っていた。
涙の膜が張り、視界がぼやける。
こんなことになるなら、初めから出会わなければ良かったのに。
さっき見た専務と女の人の姿が頭に浮かぶ。
きっと、身分違いなのに専務を好きになっちゃった私への罰だ。
涙を拭き、メッセージを見る。
『話があるから、今度さくらが都合のいい時会わないか?なるべく直接話したいんだ』
私が決心したように、専務も同じことを思ったのだろうか。
楽になるけど、その分悲しい気持ちもあった。
まだあの女の人と一緒にいるのかな…
でもお似合いの2人だったな。
会わないと決めたけど、専務の方から切り出してくれるなら心の整理もつきやすいと思い、『私はいつでも大丈夫です。専務が忙しくない時、連絡ください』と返す。
何も考えたくないから、明日の仕事の準備と家事をして、すぐ眠ることにしよう。
そう決めて、涙を拭いたティッシュと、専務との思い出をゴミ箱に投げ捨てた。
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
次の日、仕事を終えて帰っていると、知らない年配の女性に声をかけられた。
「あの…花宮さくらさんですか?」
品の良さそうな方だわ。
「…はい。あの、どちら様ですか?」
知り合いではないと思うんだけど。
「私は、宮代さちと申します。宮代亮真の母です」
…専務のお母様!やっぱりお母様は美人な方なのね。
「は、初めまして。花宮さくらと申します」
「少し、お話があるのだけれどよろしいかしら?」
「私は全然大丈夫です」
…話ってきっと専務とのことよね。
「外は冷えるから、そこのカフェでいいかしら」
とりあえず「はい」と頷き、お母様について行く。
席に座ると、すぐにお母様は話を切り出す。
「単刀直入に言うのだけど、亮真と別れて欲しいの。あの子には婚約者がいてね、今まではあまり強くいってなかったのだけどそろそろ身を落ち着けて欲しいと思っているの。本人たちの問題に親が口出しするのも申し訳ないのだけど…。もちろん、それなりのお金はお支払いします」
…そんなことを言われて私は断れる立場にないのは分かってる。
それに、相手にそれなりの身分があった方が、専務を支えられるって言うことも。
そもそも付き合っている訳ではなく、体の関係だし。…なんか言ってて悲しくなってきた。
「分かりました。専務との関係は終わりにします。ですが、お金は必要ありません。お金ではなく、自分の意思で決めたので」
「……そう。急にこんなこと言ってごめんなさいね。あの子の為だと思って許して頂戴」
お母様の気持ちも痛いくらい分かる。
それに、こないだ専務と婚約者の姿を見て、離れるって決めた時だったから、ちょうどいい機会だったのかもしれないな。
今度会う時に、私も話をしよう。
専務のお母様の後ろ姿を見ながらそんなことを考えていた。
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
事態が大きく変わったのは、お母様と会ってから1週間過ぎたくらいの時だった。
年明けから、専務はかなり忙しいらしく、会えない日々が続いていた。
朝から由美がバタバタと走ってくる。
「ねぇ、さくら聞いた?専務、明後日からしばらくパリに行くらしいよ。支店の大きな仕事任されたんだって」
え……明後日?専務がパリに?
「そうなの?海外なんてすごいね」
あまりに衝撃的すぎて頭が真っ白になる。
「もう、本当にさくらこういうの興味ないんだから。あーあ、せっかくイケメン拝めてたのになぁ…。でも外国行くってことは婚約はもう決定したのかな、さすがに相手だって3年も待てないよね」
「……3年も行くの?結構長いんだね」
「うん、そうらしいよ。まぁ確かではないんだけどね。でも前に海外行ってた時も同じくらいの期間だったし、大体そうじゃないかな」
専務の言ってた話ってきっとこの事だったんだ。
でも、顔を合わせなくて済むのは私にとっては幸いの事だったのかもしれない。
専務を見たら、また色々思い出しちゃうから。
それに、物理的な距離が離れれば、気持ちだってすぐに落ち着くだろうし。
……でも離れるって決めたのに、心のどこかでまだ一緒に入れたらなと狡い考えをしている自分がいる。
ふとした瞬間に専務のシトラスの香りを思い出すと、恋しく思ってしまう。
専務に恋してから、自分が自分じゃないみたいに感じるようになった。
身体だけの関係って想像よりも幸せで、でもその何倍も辛くて悲しかった。
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
その日の夜、ピロンという通知と共に専務のメッセージが届いた。
『今日の夜8時、前のバーで会えるか?』
…今日で全てが終わる。
アプリを開き、『分かりました』と返事を送る。
退社時間まで気持ちは落ち着かず、ソワソワして一日をすごした。
帰り際に化粧室に寄って、少しだけ化粧を直す。
…別に綺麗にしなくたっていいじゃない。専務は私のことなんて気しないわ。
鏡に映る自分と自問自答する。
でも、それでも、専務がもしかしたら私のことを思い出す時があるかもしれない。
その時は綺麗な姿の自分が朧気にでも残っていて欲しい、そう思った。