ままになったら極上御曹司に捕まりました?!
悠真が産まれたばかりの頃、自分1人で何とかやって行かなきゃと、背負い込みすぎていた時期があった。
この子には私しかいないし、育てていく責任感は今まで感じたことの無い重さだった。
そんな時に母が
『悠真の家族は花宮旅館みんなだからね』
そう言ってくれて心が少し楽になった。両親には一生感謝してもしきれない。
しばらく悠真を見つめて、洗い物が残っていたのを思い出し、スースー寝息を立てて眠っている悠真を起こさないように、そっと部屋を出た。
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居間に戻ると父と母が話していた。
「何かあったの?」
「あ、あぁ…来週末、全部屋貸し切りたいと予約が来たんだ」
「全部屋?!すごいじゃない。何かの集まりかしら」
「それが…宮代コーポレーション様から予約が来て……」
"宮代コーポレーション"
その名前を聞いて一瞬頭が真っ白になる。
私が悠真を妊娠する時まで働いていた場所。そしてそこでの記憶は全て封印した。
両親は何も言わないけど、大手の会社を辞めて子供を身ごもって娘が帰ってきたのだから、それなりに事情を察しているのだろう。
「会社で貸し切るなんてすごいわね。忙しくなりそう」
「さくら、大丈夫……?」
「ん、?何が……?」
「ううん、なんでもないわ。来週は忙しくなりそうね」
きっと2人は私が動揺するのを分かってた。だから聞いたのだろう。
私に気を遣わせるのは申し訳なかったけど、悠真を産むと決めた時全て忘れようと心に決めた。
"彼"が来る可能性は低いはず。
わざわざ専務である彼がこんな田舎まで来ることはないだろう。
父に話を聞いてから、余計な心配ばかりしていたが、よくよく考えると彼にとっては、私なんてあの少しの期間だけで心に残るような人間ではない。
そうやって考えれば自然と心も落ち着いた。
もうこれ以上何も考えないようして、家事を済ませ、両親に挨拶をしてからぐっすり眠る悠真の隣に体をすべらす。
悠真が隣にいるだけで私は世界一幸せ者ね。
悠真のサラサラの髪を撫で、可愛らしい横顔を眺めながら目を閉じた。