ままになったら極上御曹司に捕まりました?!

悠真が産まれたばかりの頃、自分1人で何とかやって行かなきゃと、背負い込みすぎていた時期があった。

この子には私しかいないし、育てていく責任感は今まで感じたことの無い重さだった。

そんな時に母が

『悠真の家族は花宮旅館みんなだからね』

そう言ってくれて心が少し楽になった。両親には一生感謝してもしきれない。

しばらく悠真を見つめて、洗い物が残っていたのを思い出し、スースー寝息を立てて眠っている悠真を起こさないように、そっと部屋を出た。


‎✿


居間に戻ると父と母が話していた。

「何かあったの?」

「あ、あぁ…来週末、全部屋貸し切りたいと予約が来たんだ」

「全部屋?!すごいじゃない。何かの集まりかしら」

「それが…宮代コーポレーション様から予約が来て……」


"宮代コーポレーション"


その名前を聞いて一瞬頭が真っ白になる。

私が悠真を妊娠する時まで働いていた場所。そしてそこでの記憶は全て封印した。

両親は何も言わないけど、大手の会社を辞めて子供を身ごもって娘が帰ってきたのだから、それなりに事情を察しているのだろう。

「会社で貸し切るなんてすごいわね。忙しくなりそう」

「さくら、大丈夫……?」

「ん、?何が……?」

「ううん、なんでもないわ。来週は忙しくなりそうね」

きっと2人は私が動揺するのを分かってた。だから聞いたのだろう。

私に気を遣わせるのは申し訳なかったけど、悠真を産むと決めた時全て忘れようと心に決めた。

"彼"が来る可能性は低いはず。

わざわざ専務である彼がこんな田舎まで来ることはないだろう。

父に話を聞いてから、余計な心配ばかりしていたが、よくよく考えると彼にとっては、私なんてあの少しの期間だけで心に残るような人間ではない。

そうやって考えれば自然と心も落ち着いた。

もうこれ以上何も考えないようして、家事を済ませ、両親に挨拶をしてからぐっすり眠る悠真の隣に体をすべらす。

悠真が隣にいるだけで私は世界一幸せ者ね。


悠真のサラサラの髪を撫で、可愛らしい横顔を眺めながら目を閉じた。
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