桜の花びらが降る頃、きみに恋をする

たくさん涙を流して心が落ち着いた頃、しばらくして雨も止んだ。

「雨も上がったことだし、そろそろ帰ろっか」

「そうだね。陽向くん、話し聞いてくれてありがとね」

「ううん! むしろ、辛いのに話してくれてありがとう」

と陽向くんは優しく微笑んだ。

それから、バッグを持って陽向くんと一緒に休憩所をでると、「あっ!」と突然、陽向くんは声を上げた。

「‥‥‥?」

何事かと思い陽向くんを見ると、彼は上を指差した。

「あそこ! 空を見て!」

その方向に顔を上げてみると、目の前の光景に思わず息を呑んだ。

そこには端から端までくっきりと色鮮やかな半円状の大きな虹が架かっていて、さっきまで雲で隠れていた夕日が顔をだし、7色の虹を煌々と光照らしている。

「‥‥‥綺麗‥‥‥」

思わずそう言葉が溢れた。

今まで、なにを見ても心を動かされることなんてなかったのに。

陽向くんと出会ってから、あの日に捨ててしまった感情を取り戻していくかのようだ。

「きっと、蒼のお父さんは空の上で優しく見守ってくれているんじゃないかな」

と陽向くんも再び空を見上げる。

姿は見えないけど、本当にお父さんが笑っているような気がした。

前を向いていなかったら、この綺麗な虹を見つけることができなかったかもしれない。

まるで、心が浄化されていくようだった。
< 56 / 209 >

この作品をシェア

pagetop