彼女の居場所外伝 ~たんたんタヌキ~
「ちょっと厳しいことを言ったけど、この先薫さんはどうしたい?」
「ーーーどうしたいって、何をですか」
「俺と薫さんのお付き合いさ」
やっぱりそう来たか。
どうせ付き合いをやめたいって思ってるんでしょ。
史也さんはもう私と一緒にいるのは嫌なんだろう。
確証はないけど、康ちゃん、史也さん、谷口早希は三角関係。私も入れたら歪な四角になる。
彼女は既に退職したと聞いているけれど、会社を離れたからといって二人との付き合いがなくなったということではないだろう。
「私とのお付き合いをなかったことにして史也さんは谷口さんとお付き合いをするってこと?」
「ーーーキミはまたそれなんだね」
「だってそうでしょう。心当たりがないとは言わせない。史也さんは私にはちっとも心を開いてくれないのにあの子の前では態度が違う」
「そうだね。谷口、いや早希さんと俺が親しいのは否定しない」
ほら、やっぱり。
悔しくて奥歯を噛みしめる。こんなの酷い裏切りだ。
「だけど、それは恋愛感情を伴うものじゃないと前も言ったはずだけど。それがキミは信じられないし理解も出来ないと言うんだね」
「信じさせてくれるようなことを言ってもらったり、してもらったりなんてことなかったと思うけど」
必死になって言い返すと史也さんが少し歪んだように口角を上げた。
「これでも精一杯時間を作ったと思うんだけどね。薫さんにはわからなかったかもしれないけれど」
その言葉には嫌みが含まれていた。
どうせただの一社員の私には何もわからないと侮られている。
知らされないネットワークや極秘プロジェクト。
同じ秘書課にいても私と彼とでは業務の内容も量も質も全く違う。
その上、彼は今後どんどん昇進していくだろう幹部候補だ。次の大きな人事異動で何かしらのポジションに就くのでは言われている。
忙しいのはわかっていたけれどーーー
「早希さんとの関係はただの同僚、ではないね。そう、ただの同僚じゃない。対等に親しく話が出来る友人に近い関係だ。彼女は聡いし浮ついたところもなく口も堅い。あの神田さんの右腕なんだ。俺の態度が他の社員に対するものと違っていても別におかしいことでも何でもないさ」
「友達だとでも?」
「いや、ただの同僚ではないけれど、友人というわけでもない。他に表現する言葉が見つからない。強いて言えばーーー友人の恋人、かな」
友人の恋人?
「その友人ってもしかして・・・」
康ちゃんのこと?
私の問いに史也さんは答える気がないらしく、テーブルの上に置かれた飲みかけのボトルに手を伸ばすと、そのまま一気飲みをした。
「薫さん、さっきの俺の質問の答えは決まった?」
余裕ありそうな表情が気に入らない。
「私は絶対にお付き合いをやめたくありませんっ」
むきになって言い切っってやった。
「そう。だったらこのまま続けようか」
予想外にサイボーグ顔の彼の顔が少し緩んだ。
正反対の答えが返ってくると思っていたから信じられないと目を見開くと、彼はくすりと笑っていた。
「ああ、でも、最初の条件は守ってね。それと、追加。今後、康史さんに付きまとわないこと。精神的に久保山家から自立する努力をすること。康史さんはキミを甘やかしすぎていたことにようやく気がついた。会長夫妻の方には俺から話してみるけど、一番大事なのは本人の自覚だろ」
そう言うと、私の肩をポンと叩いた。
「遅くなる前にどこかで食事をしよう。その後で送っていく」
私が顔を上げたときには史也さんはもう車の鍵を手に立ち上がっていた。
なんなの、もう。本当にわからない。
「ーーーどうしたいって、何をですか」
「俺と薫さんのお付き合いさ」
やっぱりそう来たか。
どうせ付き合いをやめたいって思ってるんでしょ。
史也さんはもう私と一緒にいるのは嫌なんだろう。
確証はないけど、康ちゃん、史也さん、谷口早希は三角関係。私も入れたら歪な四角になる。
彼女は既に退職したと聞いているけれど、会社を離れたからといって二人との付き合いがなくなったということではないだろう。
「私とのお付き合いをなかったことにして史也さんは谷口さんとお付き合いをするってこと?」
「ーーーキミはまたそれなんだね」
「だってそうでしょう。心当たりがないとは言わせない。史也さんは私にはちっとも心を開いてくれないのにあの子の前では態度が違う」
「そうだね。谷口、いや早希さんと俺が親しいのは否定しない」
ほら、やっぱり。
悔しくて奥歯を噛みしめる。こんなの酷い裏切りだ。
「だけど、それは恋愛感情を伴うものじゃないと前も言ったはずだけど。それがキミは信じられないし理解も出来ないと言うんだね」
「信じさせてくれるようなことを言ってもらったり、してもらったりなんてことなかったと思うけど」
必死になって言い返すと史也さんが少し歪んだように口角を上げた。
「これでも精一杯時間を作ったと思うんだけどね。薫さんにはわからなかったかもしれないけれど」
その言葉には嫌みが含まれていた。
どうせただの一社員の私には何もわからないと侮られている。
知らされないネットワークや極秘プロジェクト。
同じ秘書課にいても私と彼とでは業務の内容も量も質も全く違う。
その上、彼は今後どんどん昇進していくだろう幹部候補だ。次の大きな人事異動で何かしらのポジションに就くのでは言われている。
忙しいのはわかっていたけれどーーー
「早希さんとの関係はただの同僚、ではないね。そう、ただの同僚じゃない。対等に親しく話が出来る友人に近い関係だ。彼女は聡いし浮ついたところもなく口も堅い。あの神田さんの右腕なんだ。俺の態度が他の社員に対するものと違っていても別におかしいことでも何でもないさ」
「友達だとでも?」
「いや、ただの同僚ではないけれど、友人というわけでもない。他に表現する言葉が見つからない。強いて言えばーーー友人の恋人、かな」
友人の恋人?
「その友人ってもしかして・・・」
康ちゃんのこと?
私の問いに史也さんは答える気がないらしく、テーブルの上に置かれた飲みかけのボトルに手を伸ばすと、そのまま一気飲みをした。
「薫さん、さっきの俺の質問の答えは決まった?」
余裕ありそうな表情が気に入らない。
「私は絶対にお付き合いをやめたくありませんっ」
むきになって言い切っってやった。
「そう。だったらこのまま続けようか」
予想外にサイボーグ顔の彼の顔が少し緩んだ。
正反対の答えが返ってくると思っていたから信じられないと目を見開くと、彼はくすりと笑っていた。
「ああ、でも、最初の条件は守ってね。それと、追加。今後、康史さんに付きまとわないこと。精神的に久保山家から自立する努力をすること。康史さんはキミを甘やかしすぎていたことにようやく気がついた。会長夫妻の方には俺から話してみるけど、一番大事なのは本人の自覚だろ」
そう言うと、私の肩をポンと叩いた。
「遅くなる前にどこかで食事をしよう。その後で送っていく」
私が顔を上げたときには史也さんはもう車の鍵を手に立ち上がっていた。
なんなの、もう。本当にわからない。