政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい


「……仕事は辞めません」
「じゃあ決まりだな」

それから蓮見さんは今日依頼したハウスキーパーについて説明した。
柳原さんという女性で、年齢は二十代後半。一年半ほど前からの担当だという。

急な依頼だったけれど、柳原さんはふたつ返事で引き受けてくれたそうだ。

「体調は?」
「もう全然……少しめまいが残ってるくらいです」

誤魔化そうとして、でも蓮見さんの探るような瞳を前に諦め白状する。

「咳は?」
「それはすぐには引かないので、しばらく様子見です。……もしかして、夜うるさかったですか?」

私が体調を崩してからも、蓮見さんは同じベッドで寝ていた。
寝ている間は咳は治まっていると家族から言われていたけれど、もしかしたら睡眠妨害したのかもしれない。

心配になって聞いた私に、蓮見さんは「違う。そういう意味で聞いたわけじゃない」と否定した。

「あくまで、春乃の調子として聞いただけだ。〝レイドバッグホームズ〟には俺から欠勤の連絡を入れておく」
「えっ、大丈夫です」
「おまえに任せると俺に黙って出勤する可能性がある」
「……ちゃんと休みます。約束しますから、連絡は自分でいれさせてください」

欠勤の連絡を蓮見さんに任せるなんて恥ずかしすぎる、と焦って見上げていると、そんな私を蓮見さんがじっと見る。

「不思議なんだが。宮澤社長を父親に持つ春乃はわざわざ働かなくてもどうとでも生活ができただろう。働かず好きなことに時間を費やしてもそれを許されるだけの環境だったはずだ。なのに大学卒業してから普通に働き続けているのには理由があるのか?」


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