政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい


不可解な顔で聞かれる。

たしかに、環境的には私が海外で豪遊しようと引きこもって趣味に没頭しようと許されたと思う。

父が社長をしている限り……いや、それ以降だってもう生活は保障されているわけだし、私が一般的なお給料をもらうために働く意味は、蓮見さんからしたらわからないのだろう。

でも、私は働いてよかったと思っている。

「小さい頃から、よく父にくっついてモデルハウスの見学とか、クロスだとかカーテンの展示に行ったりしていたんです。そうしているうちに私自身も建築に興味が湧いたので、ハウスメーカーで働いてみたいとずっと思ってました。一応、大学では建築を専攻しましたけど、役に立つほどの資格はとれなかったので中途半端ではあるんですが」

父が実家を建てたときのことは鮮明に覚えている。

設計士が作った間取り図を見せて、『ここが春乃の部屋だ』と教えられたときには胸が弾んだし、すごく嬉しくて、持ち帰った間取り図を何十回も眺めた。徐々に完成に近づく家を実際に目の当たりにしたときにはワクワクが止まらなかった。

引き渡しが終わったあと、まだ家具も何もない、木の香りが広がる家に、両親も兄も私も自然と笑顔になり、ああだこうだ言いながら家具や小さなインテリアを並べた。

とても幸せな時間だったと記憶しているからこそ、私もそういったタイミングに携われたらと考え、ハウスメーカーを希望した。

正直に言えば、周りの目もあるし父の会社への入社は避けたかったけれど、ライバル会社の代表の娘をとってくれるハウスメーカーはまずないだろうと考え、〝レイドバッグホームズ〟を選んだ。

父にはかん口令を敷いたので、社員に私が社長の娘だとバレたのは先日の白崎が初めてだ。


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