政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい


「うん。ハウスキーパーの人が来る予定で……って、あれ?」

モニターを見た途端、思わず顔をしかめていた。
一度しか会ってないのにしっかりと見覚えがあったのは、印象が強かったからだ。

『どうかしたか?』
「うちに、〝岩渕さん〟が来てる。……え、これって、〝岩渕さん〟が蓮見さんの家を担当しているハウスキーパーってことだよね? こんな偶然あると思う?」

白崎に言いながら、まるで自問自答しているみたいだった。

でも、偶然は偶然なんだろう。
〝岩渕さん〟には名刺は渡したけれど、そこには会社関係しか記載されていない。〝岩渕さん〟がそれだけをもとにここまで来るのは不可能だ。

そもそも私は定住する気はないからまだ住所変更だってしていない。
ならば、考えられるのはただの偶然だけど……気になるのは、名字だった。ハウスキーパーの名前は〝柳原〟と聞いている。

やっぱり〝岩渕〟という名は嘘で、私が強引にアンケートをお願いしたから書かざるをえなくて……ということなのかもしれない。

そんなふうに思い申し訳なさに襲われていたとき、まだ通話状態だった携帯の向こうで白崎が話しかける。

『ハウスキーパーはそうなんだろうけど、偶然にしてはできすぎてる気もする。あー、一応、そこの住所教えて。あと、蓮見さんの連絡先。俺が確認とってみる』

いつまでも岩渕さん……ではなく、柳原さんを待たせておくわけにはいかない。

どちらにしても柳原さんはハウスキーパーとしてここに来ているわけだし、だったらあげても問題はないはずだ。仕事ぶりは蓮見さんも信頼していたほどだ。

柳原さんだって私のことは知らず、本当にただの偶然の再会というパターンもじゅうぶんある。


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