政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい


「でも、蓮見さんが結婚するのは許せないんですよね? だから私を追い出そうとしているわけですし」
「それは……だって、幸せだったこの一年半の生活があなたのせいで急に壊されたから。私が彼のために完璧に仕上げた生活を簡単に捨ててあなたと悠々と暮らしているんだと思ったら、我慢できなくなって、それで……」
「〝私と蓮見さんだけの場所に、許可もなく立ち入らないで〟って思ったってことですよね」

柳原さんがぐっと押し黙る。肯定だった。

それは、さっきの〝ただ見守れれば〟という発言よりもよほど恋愛感情らしいと私は思ったのだけれど、彼女があまりにツラそうに下唇を噛んでいるので、不思議に思い声をかける。

「あの、そう思うのは普通だと思います。蓮見さんは接触すらできないアイドルではないですし、ただ見守って崇める必要なんてないです。好きなら好きで恋人の座を望むのが普通だと思います」

だからそんなに自分を責めるような顔をしなくてもいいと伝えたくて言うと、柳原さんはしばらくぼんやりと私を見てから、ふっと笑った。

怒りや憎しみ、それに呆れが混ざったような笑みで「そういうところが鼻につくのよ」と言った柳原さんが、そのままの表情で続ける。

「モデルハウスで私が怪我をさせた時も、それに今だって、痛いくせにまず大丈夫って笑顔を作って、しまいには私の心配して……あなたを〝いい人〟だとか〝優しい人〟だと思うたびに自分が情けなくなる。蓮見さんにはこういう人が合うのかって見せつけられて、惨めな気持ちでいっぱいになるの。わからないでしょ?」

悲しそうな微笑みに目を見張る。

口の中に血の味が広がっていた。
結露した水滴を吸い取ったタオルから、私の手首へと滴が流れ落ちる。

呆然としている私を見て、柳原さんが笑う。さっきまでと一転して、今度は馬鹿にしたようなものだった。

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