政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい
「あの、それで……蓮見さんの話をしていたんでしたよね」
思わぬ休戦をやむなくされ流れてしまっていたけれど、私が転ぶ前は蓮見さんの話題をしていたはずだ。
もうあの時のような重苦しくて殺伐とした空気はない。場を包むのは、気まずさのみだ。
それでも途中にしたままにするのは気持ちが悪い。
「柳原さんは、蓮見さんが好きだから私が邪魔なんですよね。だからここを出て行かせたい……まではわかるんですが。そのあと、どうしたいんですか? 柳原さんが蓮見さんと一緒に暮らしたいってことでしょうか」
頬を動かすたびに走る痛みに耐えながら聞く。
柳原さんは、心外とばかりにギュッと眉間にシワを寄せた。
「まさか。私なんかが蓮見さんと一緒に暮らせるわけがないでしょ。私は別に……見守って、たまにこうしてお部屋の掃除をさせてもらえたら、それでいいんです」
「見守るって……」
「一年半前、初めて蓮見さんに会ったとき、あまりの綺麗さに驚きました。ひと目惚れでした。それからの時間は夢みたいだった。蓮見さんの生活の手助けができる、それだけで満たされた」
最後は穏やかな表情で言った柳原さんにポカンとしてしまう。
だって、見守ってたまに生活の手助けができればいいなんて……それは恋愛感情なのだろうか。
好きだったら、もっと相手の生活に入り込んで、自分が相手を想うのと同じくらい相手にも想い返されたいと願うものじゃないのだろうか。