政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい


出会いは、俺が二十歳、春乃が十四歳の頃だった。

友人の秋斗の妹である春乃は、昼休みになるとよく隣の敷地にある中等部を抜け出し大学に不法侵入していた。

秋斗と中庭なりなんなりを歩いていると春野が姿を現し、秋斗にじゃれつき中等部に帰っていく。

春乃は基本的に秋斗しか見ていなかったし、俺も彼女に興味はなかったため、同じ空間にはいても話したこともなければ笑い合ったこともなかった。

ただ、そんな中で秋斗が話していた内容はやけに耳にも頭にも残っていた。

『春乃、玉の輿狙いなんだよなぁ。俺的にはさ、もっと愛情のある結婚をして幸せな家庭を築いてほしいんだけど、〝経済力のある男と結婚する〟って言って聞かないんだよ。まぁ、なにを幸せだと思うかは個人差あるし強くは言えないんだけどさぁ。ああ、でもあれだな。おまえのことを話せば、春乃はおまえに夢中になるかもな』

父親が大企業の代表を務めている点や、俺がこれから歩く道を考えれば、自慢ではないが春乃の周りにいる男の誰よりも優良株だろう。

しかも、兄と親しいとなれば近づきやすい。

秋斗の言う通り、春乃からすれば俺はこれ以上ないほどのターゲットだった。

『話しちゃおうかなぁ。春乃と大祐がくっついたら俺も嬉しいし』

秋斗がそんな話をしてからも、春乃は相変わらず大学に忍び込み俺たちの前に姿を現しては印象に残る無邪気な笑みをふわりと残し帰っていく。

その忙しなさはシンデレラ以上だった。

ブラコンの彼女が秋斗に会いに来るのは、週に二、三度。期間にして一年。つまり、百五十回近く。
にもかかわらず、ほぼいつも秋斗の隣にいる俺に春乃が話しかけたことも、おそらく目が合ったことさえなかった。

もちろん、アプローチ関連もまったくゼロだ。


< 183 / 239 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop