政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい


「兄と、同じ大学だったんですか?」

俺の話を聞いた春乃の第一声がそれだ。
まさか、とでも言いたそうな顔だった。

風呂上がりに毎日並んで座るソファに、外が明るいうちに座るのは珍しい。昨日の夜よりも距離が近いのは俺の気のせいではなかった。

「ああ。春乃が秋斗にじゃれついている時、だいたい秋斗の隣にいた。おまえは眼中になかったようだが」
「誰かいたような気もするんですが……あの頃、私、相当なブラコンだったので、兄以外目に入っていなくて……すみません」

中等部の頃、彼女が学校で色々あったのは秋斗から聞いていた。

口を開けば春乃のことばかりを話す秋斗を最初は鬱陶しく思っていたが、そのうちに気にならなくなったどころか、心待ちにするようになった。

刷り込みというやつだろう。
週刊雑誌の漫画のようなものだと言えばわかりやすい。

放っておいても〝春乃〟の物語の続きは、秋斗が毎週どころか毎日運んできた。

『春乃はなぁ、昔は体が弱かったんだよ。だから肺活量上げるために水泳習ったりしてたけど、あれ、本人はツラかったと思うんだよな。でもそれ乗り越えて関東大会出場決めたときには会場で俺泣いたもん』
『あいつ、見た目は割と可憐だろ。それでいて有名大学の付属中等部のセーラー服とか着てるから、変質者に声かけられたりって結構あるんだよ。先月も前から自転車に乗ってきた男にすれ違い様に胸触られてそのままの勢いで転ばされてさ。悔しいって泣いてるの見てられなくて、その場所春乃と一緒に張って、現れた犯人捕まえて警察突き出してやった』

そんな話を毎日のように植え付けられ続けて心を動かさない人間はいない。
少なくとも俺は興味も持ったし、勝手に知った気にもなった。


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