愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
(わたし……少しは祥さんの役に立ったのかな……)

何も持たないどころか、潰れかけの料亭を実家に持つわたしなんかと、彼がどうした結婚したのか。
ずっと心の片隅に引っかかっていた疑問が解けたことに、わたしは少しホッとしていた。

そもそも、祥さんがわたしを森乃やの娘として利用したのだとして、どうしてわたしに彼を責められるだろう。
いや、わたしには彼を責める資格なんてない。最初に彼を利用したのはわたしの方なのだから。

彼にしてみたら、日本から遠く離れたロンドンでたまたま出会った女が、会社にとってプラスになる要素を持っていて、しかも自分から『奪って』と言って来たのだ。なんて好都合。まさに渡りに船。

「ネギを背負った鴨…?あ、薪を背負ったタヌキか……」

彼がなにかとわたしのことを「仔ダヌキ」と揶揄ってくることを思い出して、「ふふっ、」と小さく笑った。その拍子に、目尻からぽろりと涙がひとしずくこぼれ落ちる。それを指先で(ぬぐ)うと、わたしは瞳を閉じた。

(理由がはっきりして……良かったじゃない、寿々那)

この結婚に――わたしを嫁にすることにはちゃんと意義があったのだ。

波のようにくり返し訪れる頭痛に眉を寄せ、胸のむかつきをこらえながら自分にそう言い聞かせる。

森乃やとの政略結婚だから。彼の子どもを身ごもっているから。だから彼はわたしを大事にしてくれる。

「愛されたいなんて……そんな望み、持たない方がいいのよ、寿々那……」

閉じたまぶたに急激に熱が集まる。ぎゅっと硬くつむると、いっそう強い頭痛に襲われた。

「うっ……」

中から割られそうなほど頭が痛い。
ズキンズキンと頭痛がするたび、耳の奥の荒尾の声がした。

『愛のない政略結婚なんて、長く続くわけがない』

「うっ、……ううぅ……っ」

こらえきれず溢れ出す涙と嗚咽が、みるみるシーツに暗い染みを広げていった。


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