愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
「帰ってきたら珍しく姿が見えなかったから、温室かと思ってあちらも覗いたがいない。靴もカバンも玄関にあるから家に居ると思っていたのだが……もしかして、と寝室(こっち)を覗いてみて正解だったな」

「すみません……」

家に入るなり、あまりの気持ち悪さにトイレに駆け込んだのだ。しばらくして二階の寝室に上がったのだけど、玄関に荷物を置きっぱなしだったことを失念していた。
そのうえ、迎えに出るべきわたしを逆に探させてしまうなんて……。

申し訳ない気持ちになってうつむくと、彼の手が頭の上にポンと乗った。

「謝らなくていい。具合が悪い時は気にせずに寝ていていい、いつもそう言っているだろうが」

「でも……」

「無理をすると体に(さわ)る。自分一人の体じゃないんだ」

「……はい」

わたしのことを気遣うセリフなのに、胸がひどく痛んだ。まるで『大事なのはおまえじゃなくお腹の子だ』と言われているようで。

同時に頭もズキンと痛み、思わず顔をしかめる。
「大丈夫か?」と言った彼はまたゆっくりと背中を撫でてくれた。

大きく温かな手に背中をさすられる度に、胸に甘やかな想いが湧き出してくる。けれど同時に、やるせない哀しみが胸を締めつけた。

相反するふたつの気持ちがマーブル模様のように渦巻いて、複雑に混じり合いながらどこか出口探している。それらが涙になって目から溢れ出しそうになるのを、わたしは眉間に力を込めることで必死にこらえた。
< 135 / 225 >

この作品をシェア

pagetop