愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
「そうだった……のですか?」

「ああ。しばらくの間一緒に遊んで、俺が帰る時におまえが俺に言ったんだ。『おおきくなったらむかえにきてね。すずな(しゅじゅな)がおにいちゃまのおよめしゃんになってあげるね』とな」

「えぇっ!」

「どんぐりみたいな丸い瞳に涙をいっぱいに溜めてな。一生懸命に涙をこぼさないように耐えている小さな女の子がいじらしくて、俺も『そうだな』と答えた」

「そんなことがあったのですね……」

「ああ。それから一度も森乃やに行くことはなかったし、幼い子どもの言葉なんて本気にしていなかったが……まさか、たまたま仕事で訪れたロンドンで再会するなんてな。しかも庭の奥まった場所で、ひとりでぽつんと座って動かないときた。子どもの時と同様に、両親や店のために自分が我慢しようとしていているおまえに、俺は何かしてやりたくなった。せめて最後に楽しい思い出のひとつでもと【ザ・シャード】へ連れて言ったんだが……」

チラリとわたしを見た祥さんが、口の端を持ち上げて不敵に「ふっ」と笑った。

「まさか『初めてを貰え』と迫られるとは思わなかったな」

「うっ、」

「一瞬本気でタヌキに化かされているのではと疑いたくなった」

「ううっ……」

言葉に詰まったわたしを見て、祥さんは「くくくっ」と笑いを噛み殺す。再三に渡る『タヌキ扱い』に文句を言いたいところだけれど、あの夜のことを持ちだされるとわたしに勝ち目はない。今思い返しても、羞恥で悶絶してしまう。酔っていたとしか思えない。

顔を赤くして羞恥に耐えていると、重低音の効いた声がハッキリと言った。

「『これは運命だ』」
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