愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
祥さんの話によると、その時のわたしは綺麗な着物を着ていたそうで、『お正月だからか?』と訊ねると、幼いわたしは『おたんじょうびだから』と答えたという。

『誕生日なのになぜ一人でこんなところにいるんだ?』

『おとうしゃんもおかあしゃんも、もりのやでいそがしいの。おばあちゃんはのの(・・)ちゃんのおせわ。すずな(しゅじゅな)はおねえちゃんだから、ひとりであそべるもん』

それを聞いた祥さんは、すぐにピンと来たそうだ。この子はこの料亭の娘で、誕生日だけど料亭を営んでいる両親は休めない。それをこの子も分かっているから、一人でここで遊んでいたのだろうと。

『なんにしても、こんなところにずっと座っていたら風邪を引くぞ』

着物は温かいとはいえ、その日はわたしの誕生日――すなわち、一月七日。冬真っ只中。案の定、小さな手のひらが真っ赤になっていたらしい。それでも『へいきだもん』と言い張る小さなわたしがを見るに見かねて、祥さんは彼女を抱え上げて言った。

『こんなに寒くても大丈夫とは……さては仔ダヌキが化けているな!?』


「思わず抱え上げてしっぽを探してみたが……残念。なかった」

「当たり前でしょう……」

だから今わたしを抱えてしっぽを探したのだろうか。いくらタヌキ顔だからって、化けダヌキなわけないのに。

「だけどおまえはそれをすごく喜んだ」

「えっ!タヌキ呼ばわりをですか!?」

「まさか。そのことは小さなおまえにも『たぬきじゃないもんっ!』と叱られた。気に入られたのは『抱っこ』のことだ」

「あ……」

「『すごい。はっぱもおそらもすごくちかいね』とあんまり大喜びしてくれるから、俺も調子に乗っておまえを抱いたまま庭のあちこちを歩き回ったんだ」
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