愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
「もう寿々姉ったら……自分だって今や立派な社長夫人やろうもん」

「わたしは、たまに同伴するくらいで別に大したことしてないわよ。祥さんはかなり忙しそうだけど」

祥さんと結婚してからかれこれ五年。その間に香月リゾートは数を倍に増やし、海外にも多数のホテルを有するようになった。
祥さんは前にも増して忙しく国内外を飛び回り、家を留守にすることも多い。実際今も二週間ほどアメリカだ。

わたしの方は希々花に言った通り、たまの同伴以外は留守を守り育児をするだけ。“立派な”と言えるようなことはしてない。

すると希々花が突然、はぁと大きなため息をついた。

「見た目だけそれっぽくなっても、中身は全然たい……。毎日嫌んなるくらい鬼大女将にしごかれて、心折れそぉになるとばい」

希々花は大げさに天井を振り仰いでから、パタリと座卓に突っ伏した。

若女将育成という大役ができた母はすっかり元気になり、今は大女将として意欲的に働いている。
大女将と若女将双方からそれぞれメッセージをもらうので、二人の様子が手に取るようにわかるのだ。

日々一生懸命女将修業に励んでいる妹をなんとか励ましたい。
だけど、本来ならわたしが継ぐはずだったのだ。下手な慰めや励ましは、かえって逆効果になりそうで――。

なにを言うべきなのか迷っているうちに、突然希々花がムクッと起き上がった。

「ばってん!絶対いつかお母さんに言わせちゃると!『希々花たちに後を継いでもらってよかった』って!」

胸の前でこぶしを握りしめ闘志をみなぎらせた希々花に、ふっと肩から力が抜けた。
昔から妹のこういう明るさに救われてきたのだ。

「うん、その意気!」

わたしがそう言うと、希々花は「えへへ」と笑った。

< 203 / 225 >

この作品をシェア

pagetop