愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】

「ところで、そのお母さんは? 仕事で手が離せないの?」

「ううん。うちでさっちゃんと陽大(はると)と遊んでくれとーよ」

(さき)は着いてすぐ、同い年の従兄に誘われて遊びに行ってしまった。
二年前に連れて帰ってきたときのことは覚えていないようだけど、テレビ電話をよくしていたおかげか、すぐに馴染んだみたい。
やっぱり子どもは子ども同士。一緒に遊ぶ相手がいた方が楽しいのだろうな。

そう考えたら、またひとつ鉛が沈んでいくけれど気づかないふりをする。

しばらくして仲居が呼びに来たため、希々花が部屋を出て行った。お客様が来る時間ではないけれど、急な要件でも入ったのだろうか。

ひとりきりになったので、あらためて部屋をぐるりと見まわしてみる。

十五畳もあるこの和室に、どこにもほこりひとつ見あたらない。床の間には七福神が描かれた掛け軸と色鮮やかな生け花。相変わらず美しくしつらえてある。

「よりにもよって、この部屋だなんて……」

思わずひとりでふふっと笑ってしまう。

なにを隠そう、わたしが今いるのはあの婚礼のときの部屋。
当時のことを思い出すと胸が少し苦しくなるのに、つられて次の場面を思い描くので、胸がキュンと甘く鳴る。そんな自分がおかしくなったのだ。

五年前、もし彼がここに現れなければ、今頃自分はどうなっていたんだろう。
考えた途端、胸がせつなくなった。

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