愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
「会いたいな……」

広い部屋にぽつりと声が落ちた。
結婚して五年も経っているというのに、たった二週間離れただけでこんなふうに恋しくてたまらなくなるなんて。

祥さんがアメリカから帰ってくるのは、この大型連休が明けてから。ちょうど私たちが東京の自宅に戻る頃だ。
今回二年ぶりに実家に帰ることにしたのは、ひそかに母娘(おやこ)ふたりの寂しさを紛らわす目的もあったりする。

しっかりしなきゃ……。
母親のわたしが寂しがっていたんじゃ、幸が余計に寂しがるもの。

自分にそう言い聞かせてそっと息を吐き出したとき、襖の向こうからミシっと床がきしむ音がした。

希々花が戻ってきたのね。

本当は若女将の仕事で忙しくて、わたしに構っている暇なんてないんじゃ……と思い、襖がスーッと引かれると同時に口を開く。

「忙しいならわたしのことは放っておいていいのに――」

「それは無理な相談だな」

「祥さん!」

てっきり妹だと思って話しかけた相手は、まさかの祥さんだった。

「かわいい妻を放っておけないだろう? それとも、半月も留守にしたから怒っているのか?」

「そんなわけ――って、帰ってくるのは来週だって!」

「詳しい話はあとでゆっくり。とりあえず行くぞ」

いったいどこへ⁉ そう尋ねる間もなく手を取られ、強引に部屋から連れ出される。ずんずんと廊下を進み玄関ホールに出たら、希々花が立っていた。

「じゃあ希々花さん、あとのことは頼んだよ」

「承知ですぅ!お義兄さん、寿々姉のことよろしくお願いしますねぇ!」

軽く片手を上げた祥さんに対して、若女将にはおよそ似つかわしくない敬礼をビシッと決めた希々花は、わたしに向かってその手をひらひらと振った。


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