愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
一矢報いる塔の上
[1]

時刻は七時過ぎ。英国夏時間の今は、ロンドンの日没は八時過ぎになる。
日没一時間前ということもあってか、ロンドンのサンセットを見ようという人々でそこは賑わっていた。


チェルシー薬草園を出たあと、わたしが連れて来られたのは【The Shard(ザ・シャード)】――西欧一の超高層ビルだ。

テムズ川のほとりに建てられたこのビルは、上に行くほど細くなっていく三角形の形が特徴的で、ロンドンのランドマーク。日本で言うところの『東京スカイツリー』や『横浜ランドマークタワー』のようなもの。

その六十九階の展望フロア、全面がぐるりと三六〇度見まわせるガラス張りの壁を前に、わたしは小さな体をさらに小さく縮こまらせていた。

ともすれば、人垣に埋もれがちな百五十六センチの体を、さらに脇をぴっちりと締め首を竦めて出来るだけ小さくならざるをえないのにはそれなりに訳があって―――。


「テムズ川が、地図の通りに蛇行していることがよく分かるな」

すぐ真上から降ってきたバリトンボイスに、下唇をきゅっときつく噛む。そうでもしないと、自分でも制御不能な声が飛び出そうになる。

わたしの真後ろに立つ祥さんは、目の前のガラス壁に両手をついていて。そうすると、その両腕の間に立っているわたしは、自然と彼とガラスの間に囲まれた形になっていた。
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