愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
「高所恐怖症だと知っていれば、別のところにしたのだがな……」

そう言われて、ハッとした。自分の失態に気付いたのだ。
入場チケットの代金を払ってくれたのは、他でもない彼なのだ。しかも、通常のものよりもさらに高い『優先チケット』。そのおかげでゴールデンタイムにもかかわらず、待たずに入れたのに。

「別に……高所恐怖症というわけじゃありません……ちょっとびっくりしただけで……」

まさか足が竦んでしまうなんて、自分でも驚いた。高い所が苦手だなんて、これまでは思ったことはないのに。

ここまで来て『怖くなった』とは言えず、かといって足も動かない。そんなわたしに気付いて振り返った祥さんが訊いてきた、『もしかして怖いのか?』と。黙ってそれに小さく頷くと、彼は軽く目を見張ってから『無理そうなら降りよう』と言い出した。

せっかく高いお金を払って連れて来てくれたのに、それはさすがに申し訳ない。
首を左右に振ると、彼は少し逡巡してから、『足元じゃなく遠くを見たらいい』と、わたしの手を取りここまでゆっくりと連れて来てくれたのだ。

『もしこのガラスが割れても、俺が捕まえてやるから安心しろ』

安心させたいのか怖がらせたいのかよく分からない、そんなセリフを口にした彼は、そのままふわりと囲むようにわたしの後ろに立ったのだった。
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