愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
「別に怖くなんてありません」

初めての高さに少し驚いただけで、慣れたあとは一度も怖がっていないのに、いつまでも揶揄ってくるなんてあんまりだ。

むくれ気味にわたしが言うと、「じゃあやっぱりワインがダメなのか?」と真顔で返ってきた。

「の、飲めますよ、ワインくらい」

うそ。本当はワインなんてまともに飲んだことはない。

だけど、この年になって恋愛はおろか、お酒も未経験だなんて言ったら絶対また揶揄われる。そう思ったわたしは、おもむろにワイングラスをクイッと呷った。

「おい、」

焦ったような声に構わず、勢いのままゴクゴクと三口飲む。喉がカーっと熱くなった次の瞬間、「ごほごほっ」とむせ込んだ。

「ほら、慣れないことをするからだ」

「い、今のはたまたまで……、普段はワインくらい飲みますから」

彼に呆れられたのが悔しくて、なんとかそう言い返したものの、唯一飲んだことがあるのは、炭酸で割ったサングリア。それでもグラス一杯でほろ酔いになってしまった。

普段は全然アルコールは飲まない。飲むのはもっぱら自家製ハーブティばかり。

いい年をしてお酒すら(たしな)めないお子ちゃま(・・・・・)なのだと思われたくなくて、もう一度ワインに手を延ばそうとした時、ちょうど料理が運ばれてきた。

「わぁ~っ、」

目の前に置かれたプレートに思わず声を上げてしまう。そこには、アペタイザー(前菜)が美しく盛り付けられていた。

「可愛い……」

思わずそう呟いてしまうくらいに見惚れたのは、赤や緑が層になって盛り付けられたカクテルグラス。一番上には色とりどりの花が乗せられている。
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