愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
喋りすぎで乾いた舌をワインで湿らせながら、窓の外をぼんやりと眺める。
これを飲み終わったらデザートとコーヒーが運ばれてくるだろう。それが終わればこの夢のようなディナータイムも終わり。夢のような三年間も。
(いいじゃない寿々那、こんな素敵な夜で締めくくれたんだから)
終わらない夜なんてない。窓の向こうのきらめく色とりどりのネオンが、朝が来れば消えてしまうのと同じように。
最初から期間限定のつもりで飛び出してきたのだ、日本を―――森乃やを。
いつかはそこに戻って、自分があの店を継がなければならないと分かっていた。だからこそ、それまでは自分のやりたいことを全力でやってみよう。悔いが残らない生き方をしてみよう。そう思ったのだ。
両親に表立って反抗したことは、それまで一度もなかった。
そんなわたしが、誰に何も告げずある日突然イギリスに渡ったことは、両親を死ぬほど驚かせたに違いない。妹に言わせると、『遅れてきたお姉ちゃんの反抗期』らしい。
正直勘当も覚悟していた。
けれど、渡英してすぐに連絡を入れた時に、滅多なことでは泣かない母の声が潤んでいた。
自分がしでかした親不孝に胸が痛んだわたしは、電話越しで母に、『ちゃんと時期が来たら帰ります』と伝えたのだ。
森乃やの従業員と結婚して、森乃やと家族を支える。
それがこれからのわたしの仕事で、親不孝への罪滅ぼしなのかもしれない。
「どうした?飲みすぎたのか?」
「え?」
「さっきからずいぶんぼんやりとしているみたいだが」
「あ、……いえ、」
ハッとなって視線を手元に戻すと、少し前に運ばれてきたラズベリームースがまだ三分の一ほど残っていた。向かいの彼のものは空だ。
「す、すみません」
食べ終わるのを待たせていたことに気が付いて、慌てて残りを口に運んだ。