愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】

デザートまですべてを終えて、わたしたちはレストランを後にした。

会計の時に、今度こそ自分の分くらいはお金を払おうと身構えていたのに、どういうわけか祥さんはキャッシャーを素通り。預けてあったわたしのスーツケースをスタッフから受け取ると、レストランを出てしまったのだ。

唖然としていたわたしは、慌てて彼の後を追い、「自分の分くらい自分で」と言おうとしたところで、彼の「タクシー乗り場まで送ろう」という言葉。

瞬間、胸がぎゅっと絞られるように痛んだ。

(わたしのマジックアワーはこれでおしまい)

まぶたを伏せると、足元がゆらゆらと揺れて滲む。

(最後に夢のようなひと時を過ごさせてもらえて、良かったじゃないの、寿々那)

慣れないアルコールを飲んだせいか、雲の上を歩いているみたいにふわふわする。祥さんが手を引いてくれているから、なんとなく前に進めているけれど。

(恋は知らなくてもデートは出来たし、これで満足すべきなのよ……)

だけど、この地に残って好きな仕事を続けられるのなら、別に恋なんて知らなくても良かった。
わたしは高い所から遠くをただ眺めるよりも、地に足をつけて自分の人生を謳歌したい。

(薬草園のハーブ(子たち)みたいに、ここに根を張れたらどんなにいいだろう……)

そんなことは土台無理な話。花を咲かせるなんて、夢のまた夢。
だけどせめて、あのエディブルフラワーのように花びらだけでも―――。
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