愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】

苦悶するようなポーズを取る彼に、わたしは内心で(赤裸々(ぶっちゃけ)すぎたかも……)と思ったけれど、ここまで来たらオブラートで包んで上品に話しても仕方ない。

とどのつまりは『処女を貰って欲しい』ということ。『処女なのはモテなかったせいで、貞操観念はゆるいのだ』とアピールした方が、この場合は吉だと思う。

そんなことを考えながら返事をじっと待っているけれど、祥さんはさっきから微動だにせずうつ向いたまま。

『いくら政略結婚の相手に処女を捧げたくないからと、自分のことを利用するなど失礼極まりない』

そう怒っているのかもしれないと、わたしは焦った。

「あのっ、……ご迷惑なことは重々承知です。厚かましいことも分かっています……でも、……でもわたし、他にお願い出来る人がいなくて……その、」

もだもだ(・・・・)と要領を得ない言葉を並べていると、彼がゆっくりと顔を上げた。黒曜石のような瞳が、わたしをまっすぐに射抜く。

「本気で言っているのか…?」

「っ、――本気です!」

決意は決して揺らがないのだと言うように、一ミリも逸らさずに彼の瞳を見つめ返した。

しばらくの間、睨み合いのような体勢が続いたあと、彼は一度細く長い息をついてから、ひと言「分かった」と口にした。

わたしが「ほうっ」と胸を撫でおろすと、彼はサッと立ち上がった。反射的にビクリと背中が跳ねる。
こちらに来るのかと身構えたけれど、彼はわたしに背を向けて入り口の方へと歩き出した。

「祥さん!?」

どこに行くのかと慌てて呼び止めると、彼は足を止めこちらを振り返った。

「俺は先にシャワーを浴びてくる。やめるのならその間に帰るんだな」

「え、」

「おまえのスーツケースは入り口にある。帰る時にはフロントでタクシーを呼んでもらえ。俺の名前で呼べば支払いはこちらに回されるから心配は要らない」

それだけ言うと、彼はバスルームの扉の中へ消えてしまった。


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