編集後記
都築舞衣は、話を続けた。
「仕事はともかく、無断欠勤はおかしい。何かあったのかと思ってしまう。書き置きの内容なんだけど、何かあったら君に連絡してほしいと書いてある。深読みかもしれないけど、これはある種のダイイングメッセージなのでは?と。私は考えたの。斎藤君も書評書いてたんでしょ。そこで意見を聞かせてほしいんだ。この本を読んで」
そう言うと舞衣は、鞄から一冊の本を取り出してテーブルへ置いた。
カバーがしてあり、タイトルや作者名はわからない。
「これは鈴木孔が最後に手掛けていた本なの。私も読んでみたけど、何もわからなかった。書評家のあなたが読んだら、何か解るのかなぁって。多分、同じサークルで培った感性は似通っていた。これが私の持論なの。是非読んだ感想を聞かせてほしいの」
茶色の装丁がされた、新刊サイズの厚みの本である。
「中を見ても?」
「どうぞ」
その茶色の本の表紙には、タイトルとなる文字は無かったのだ。背表紙も同様に。
ならば、と中を見る事にしたのだ。
表紙を開く。
至って普通の本のようだが、中の紙をめくってもタイトル的なモノは書いてない。
2枚、3枚、めくっていくと普段ならタイトルが書いてあるだろうところには何も書いてなく、奇妙なイラストが描いてある。
ごちゃっ、と、ミミズがうねくったような塊で、全体的に卵型をしたイラストである。
何の絵だろうと、目を細めたり角度を変えて見てみたりしてみたが、結果は同じで何も判別しなかった。
「あの、これは?」
渓は尋ねた。舞衣は深く溜息を吐くと、
「その中に文字が隠れている、見える?」と。
蠢くミミズを見ているようで、気持ちが悪い。
文字を探すのだという気持ちで見ていると、あ、と声をあげた。
「最初の文字は、[覇]ですか?」
舞衣が頷く。そして、渓は閃いた。
覇、から始まる文字。知っていた。
記憶が繋がっていく。
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