エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~

最後の夜

《八神総合病院、国内初となる手術成功を発表》

 今年はじめて上陸した台風が窓の外でビュービューと吹き荒れている。窓枠がカタカタと鳴る夜更けの自室で、千春はベッドに座り携帯の画面を見つめていた。
 今日、清司郎が千春の手術を成功させたということが世間に向けて発表された。
 ネットニュースには担当医としての清司郎のコメントも紹介されている。

『この手術が日本中の病院で受けられるようになり、同じ症例で苦しむ人がひとりでも救われるよう願います』

 千春は目を閉じて、携帯を抱きしめる。

 感謝しているなんて、そんな言葉ではとても言い表すことができなかった。

 千春が今こうして息をしているのですら、彼のおかげなのだ。
 清司郎は、治せないと言われた千春の病気に真っ向から立ち向かい、千春の未来を切り開いてくれた。
 そしてこれからも彼はたくさんの人たちに希望を与え続けるのだ。
 そんな彼の医師としての未来を閉ざすわけにはいかない。
 千春は震える手を握りしめる。
 そのために千春ができることはただひとつだった。

 ……また、元の世界へ戻る。

 暗くて狭い檻の中へ。
 しかもそれはおそらく、以前と同じというわけにはいかないのだ。
 千春の心はもう動き出してしまった。
 誰かを愛するいうことを知ってしまった今の千春にとって、以前の場所は以前よりもずっとつらくて孤独なものだろう。

 それでももう迷いはなかった。
 千春は立ち上がり、吹き荒れる風に木々が揺れる夜の庭を窓から見つめる。
 庭の向こう清司郎の部屋は明かりが灯っていた。
 今夜、小夜は休みを取っていて、康二は遠方へ行って台風のせいで足止めをくらった。帰りは明日になるという。
 千春は息を吐いて目を閉じた。

 ——今夜。

 もう一度だけ、わがままを言ってみようと思う。
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