エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
 これから千春を待ち受ける暗くてつらい人生を生き抜いてゆくために。
 カーテンを閉めて千春は静かに部屋を出た。

 コンコンと清司郎の部屋のドアをノックする。
 返事はなく部屋の中は物音ひとつしなかった。
 もう寝てしまったのだろうか。
 千春はしばらく逡巡する。
 そしてもう一度ノックしようかと思った時、ゆっくりと扉が開いて、清司郎が部屋の中から顔を出した。

「……千春、どうしたんだ? こんな時間に」

 その硬い表情に、千春の胸はずきんと痛む。
 彼が夜遅くの千春の来訪を歓迎していないのは明らかだった。

「あの、話があって……」

 千春はうつむいて言い淀む。
 清司郎は黙ってそれを見下ろしている。
 以前のように部屋へ入れとは言わなかった。
 彼の中でもすでに結論は出ていると千春は思う。
 今日で彼は目的を達成した。
 もう千春と夫婦ごっこをする必要はないのだ。
 千春はこくりと喉を鳴らした。

 ……言わなければ。

 今夜が、千春が彼の妻でいられる最後の夜なのだ。これを逃せばもう一生チャンスは巡ってこない。
 緊張でドキンドキンと鳴る胸と少し乱れる呼吸のリズムを感じながら、千春は顔を上げて少し無理やり笑みを浮かべた。

「ニュースを見て、お祝いを言いたくて来たの。おめでとう、清君」

 清司郎がどこかホッとしたように微笑んだ。

「ああ、そのこと。ありがとう。千春のおかげだよ、元気でいてくれたからな」

 その笑顔に千春の胸はキュンとなる。
 彼の功績はすべてが彼の努力の賜物で、千春がしたことなどなにもない。
 だとしてもそう言ってくれる彼が嬉しかった。

「それでね、清君……」

「うん、どうした?」

 優しく尋ねられて千春の胸に罪悪感が広がってゆく。
 これから千春は彼のこの優しさに付け込もうとしてるのだ。
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