エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
 父の言葉に、清司郎は心の底から千春に同情した。
 両親はすでに亡く、入院がちで、同い年の従姉妹にひどい仕打ちを受けている。
 三年生になって九九を覚えられていないのは、入院ばかりで学校に行けていないからだろう。
 そしてその帰りに清司郎はまた千春の個室へ寄った。なんとなく気になったのである。
 すると今度は彼女は廊下にいて大人と言い争っていた。

『千春さん、勝手に部屋から出てはダメですと言っているでしょう⁉︎』

『ちょっと売店に行くだけ。すぐに戻ってくるから』

 どうやら部屋を抜け出そうとしたところを見つかったらしい。
 千春を止めている大人の女性は彼女のことを"千春さん"と呼んでいる。ということは、家族ではなさそうだ。
 清司郎の家でいうと小夜のような立場の者だろうか。それにしては千春に向けている視線が随分と厳しいが。

『必要な物はきちんと揃えてあるはずです。それなのに、いったいなにが欲しいんです⁉︎』

『九九カードよ……』

 千春がしょんぼりとして言う。

『九九カード?』

 女性はそれを一蹴した。

『そんな物、売店にあるわけないじゃないですか。ほら戻りますよ。これ以上わがままを言うようであれば旦那さまに言いつけますからね!』
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