エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
 でもまだ決心がつかない。
 やっぱり、やめておこうか。
 でも今日を逃したら次はいつになるかわからないし……。
 そんなことを頭の中繰り返して、また千春がドアの前をうろうろしだしたその時、突然ガチャリとドアが開く。

「千春?」

「ひゃっ‼︎」

 千春は驚いて、飛び上がった。

「せ、清君……」

「なにしてるんだ? こんなところで」

 問いかけられてもすぐには答えられない。

「あ、あの……」

 言い淀みうつむいていると、清司郎が少し考えてから口を開いた。

「とにかく、入れよ」

「お……おじゃまします」

 口の中で呟いて、千春は部屋へ足を踏み入れる。
 あの夜以来の彼の部屋。
 ふわりと感じる彼の香りに、いやがおうにも千春の胸の鼓動は速くなった。
「忙しい時にごめんね」

「いや、大丈夫だ」

 清司郎が首を横に振ってベッドに腰を下ろし、千春を見上げる。そして千春が抱いている絵本を見て微笑んだ。

「それで? 寝る前に、絵本を読みにきてくれたのか」

 少し戯けてそんなことを言う清司郎に、千春は頬を染める。
 その通りだった。
 清司郎と顔を合わせない間、千春はサークル活動に勤しんでいた。
 ただ子供たちに本を読んであげるだけとはいっても意外とやることは多い。チラシやポスターを作ったり、読み聞かせの時に活躍するキャラクターの人形を作ったり。
 なんの本にするか話し合ったり。
 サークルのメンバーに教わりながら、夢中で取り組む日々だ。
 充実した、順調な日々。
 でもひとつだけ、問題があった。
 どうやら千春は読み聞かせがあまり得意ではないということだ。
< 84 / 193 >

この作品をシェア

pagetop