再会したのは、二度と会わないと誓った初恋の上司
「お願いします」

しばらくしてストレッチャーで運ばれてきた中年の男性患者。
救急に来た患者さんらしく、救命科の研修医と看護師で運んできた。

「63歳男性。今朝方から強い上腹部痛があり受診されました。昨日の夜以降絶食中です」
「はい」

連れてきた研修医からの申し送りを塙くんが確認していく。
ストレッチャーの上の患者さんはその間も苦しそうに表情をゆがめていて、かなり辛そうだ。

「うちの病院に来るのは久しぶりなんですね」
カルテを見ながら塙くんが研修医に聞く。

「そうらしいです。5年前に循環器科を受診したのが最後で、消化器科は初めてみたいです」
「そう、ですか」

本人は苦しんでいてあまり多くを語ってはくれないから、塙くんも連れてきた研修医に確認するしかない。

ん?循環器?
私は何かが引っ掛かった。

「では、胃カメラの準備をしますね。まずはカメラで胃の中を見てみて、必要なら組織をとって検査に出したり、治療できるものはしてしまいますので」
「はい、お願いします」
この痛みから解放されるらしいと知った患者は少し安心した表情になった。
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