再会したのは、二度と会わないと誓った初恋の上司
「前処置はいつも通りで良いですか?」
「うん、そうですね」

看護師が塙くんに確認し、カメラの準備は着々と進んでいく。

でもなんだろう、とても嫌な予感がする。
私は何か引っかかるものを感じ、近くのパソコンで患者さんのカルテを開いて記録を確認した。

あっ、これって、

「塙くん」
ちょっと待って。と言おうとした時、
「ちょっと待った」
皆川先生の緊張した声が耳に入った。

やはり先生も気づいたんだ。

「問診は君がしたの?」
患者を連れてきた救命科の研修医に、皆川先生が近づき尋ねた。

「はい、そうですが」
「既往歴、処方歴、ちゃんと確認したのか?」

どうしたんだろう、皆川先生にしては声が鋭い。

「しました。でも痛みが強くてあまり話ができる状況ではありませんし、1人での受診だったので聞ける範囲で聞き取りをしました」
自分はちゃんとやったんだ何が悪いんだと、研修医の態度に出ている。

マズイな。
瞬間的にそう感じた。

「悪いけれど、この患者のカメラは受けられない」
「はあぁー」

冷静に話す皆川先生に対して研修医が大きな声を上げた。
そこにいたスタッフ全員の視線が一点に集中する。

「どうしてですか?カメラで状況確認するのが最善だと思います」
数ヶ月前まで学生だった研修医は、感情もあらわに皆川先生に食ってかかる。

私たちが研修医の頃、上級医の先生にたてつくなんて考えられなかった。
今時の子はすごいな。その強さが少しうらやましいけれど、このままじゃマズイ。

私はこっそりと敬に電話を入れた。
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